2013年5月。

茨城に引っ越して来て早々、僕は体調を崩し、仕事に行けなくなった。

ふさぎ込んでた僕を彼女は某巨大テーマパークに連れて行ってくれた。
半ば無理矢理だったが、僕の身を案じてくれていたのは分かっていた。

平日のテーマパークに行って、沢山の人たちが、
それぞれに楽しそうに過ごしている姿を見た。


そこではじめて、研究職だけが人生じゃないと思った。


色んな人たちが、いろんな生き方をしていると感じた。


僕も自分らしく生きてみたいと、そう思った。


小説を書こうと思ったのはその時だった。



自分の世界を自分で自由に表現して日々を過ごせれば夢のようだと思った。
もちろん、そんなに甘いものではないけれども。 


気持ちがふっと楽になった。どこからともなく元気が出た。


小さな研究職に閉じこもっていた僕の目の前に光が差し込んだかのようだった。


彼女には本当に感謝した。もちろん今もしている。


同人誌即売会に出始めたのはそれからだ。
彼女が「いってみる?」と誘ってくれて、毎回顔を出すようになった。

はじめは彼女が独自の作品を描いて、それを出品してくれていた。

肝心の僕は、小説の書き方が分からなくて、 半分売り子状態だった。


でも、彼女とぎゅうぎゅうにスペースに座って、本を売ったり、
知り合いの方とお話しできるのは本当に楽しかった。
道中の車での移動もとても楽しかった。

彼女も執筆が進まない僕を諦めずに一緒に同人誌即売会に通い続けてくれた。

有り難かった。

ようやく僕も執筆が開始できはじめた頃、
僕と彼女は離れ離れになる運命が待っていた。
人生は常に残酷だ。


今日はその即売会が東京某所で開催されたはずの日だ。

彼女と出られる可能性も考えて、ブースは椅子二つで予約しておいた。


だけど、チケットは彼女に全て郵送であげた。 

彼女が今日、即売会に行ったかどうかは分からないが、
もし、彼女が参加したくなったとき、僕と会わずに済むように、
チケットは一枚残らずあげた。

彼女は以前の即売会の出張編集部で担当者さんと仲良くなっていた。

彼女は僕なんかのような凡人とは違って、独特な感性の持ち主で、
きっとそれを認めてくれる人が現れるとずっと思っていた。

仲良くなれたと聞いて、今がその機会だと思った。

だから、その才能を開花させて欲しいと願った。

きっとそれが、過去のたくさんの苦しみから彼女を解放する一番の手立てだと
思ったからだ。


僕の小説なんて、本当はどうでもいい。

僕は自己満足の文章を書いているだけだから。
もちろん、読んでもらって面白いと思ってもらえるように努力はしているが、
僕には大した文才も何も無いのは自分で承知している。

でも彼女は違う。きっと彼女の作品は多くの人の役にも立つし、
楽しませる力もある。

僕の夢は、いつか彼女の作品が商業出版されたとき、
それを一人で手に取り、二冊購入し、一冊は保存用、
そしてもう一冊を自室に籠もって何度も何度も読み返すことだ。

彼女が辛かったことを、楽しい作品に昇華しているのを見て、
彼女の幸せに想いを馳せる時が来るのを楽しみにしている。


これも死ぬまでに体験したいことの一つ。



僕にはあまり時間がない。

叶えばいいな。